日本昔話コラム(ユウキ)遅れて申し訳ないです。


vol.1 かちかち山

かなりの日本通であり、復讐映画を撮らせたら右に出る者はいない。というより、右に出ようとする者は皆斬られてしまう為、誰も出てこられない、のニュアンスのほうが相応しい映画監督クエンティン・タランティーノをして「私の作品作りにおいて原点であり、また多大な影響を受けてきた日本民話」と言わしめた作品がこの「カチカチ山」である(と思う)。
この話はとある老夫婦の間に毎度悪さをしては二人を困らせる、いたずら狸を成敗するべく立ち上がったウサギがあらゆる策を施して狸をこらしめるいった復讐劇(ロマンのトッピング付き)であるのだが、なんともまぁ、復讐方法における度肝の抜かせ具合がタランティーノ監督のそれと似ているのである。

数々のいたずらに困り果てたお爺さんの手によって捕獲され、小屋に閉じ込められた狸だったが、そんな狸にも優しい表情で接し、さらには改心させる機会を与え続けたお婆さん。しかしながら結局狸はお婆さんのその優しさにつけこみ虐殺してしまう。その瞬間のシーンの描写がまた強烈である。木製ハンマーを振りかぶった狸が何も知らないおばあさんを殴り続けるのを影だけで表現した場面には感情移入せずにはいられず、つい「おばあさん。。うぅぅ。。。」とモニターに向かってつぶやいてしまう。そして事の成り行きをお爺さんから聞かされたウサギはなぜか片目だけから涙を流しながらついに狸に復讐することを決心する。

その復讐方法というのが昔の作品に対して言うのも変なのだが、斬新というか、えげつないのである。背負った藁に火をつけたり(このときに石を叩いて火を起こしたことからカチカチ山と呼ばれる)、手当てしてくんべぇと尋ねてきた狸の火傷に辛子を塗り込んだり、しまいには泥舟に乗せて沈ませるといったやり方なのである。しかし!ここで注目したいのは、狸を乗せた泥舟の沈みゆくさまを見つめるウサギの無表情っぷりである。復讐を成し遂げ、心境だって高揚しているはずなのに無表情なのである。泥舟を見つめるウサギの脳裏を真っ先によぎったモノは何なのだろうか。お婆さんへの労いの気持ちなのか、それとも相手が何者であれ復讐を行ったという事実へのとまどいなのだろうか。その答え次第で観る人のロマン度数が垣間見れる日本民話「カチカチ山」である。